siliconとsilicone(シリコンとシリコーン)飾りではない「e」
siliconとsiliconeは似て非なる単語です。
siliconは元素としてのケイ素です。シリコンともいいます。
siliconeは、人工物で、広義には「ケイ素を含む有機化合物」といえますが、シリコーンと訳してしまった方が無難なことが多いといえます。
siliconeは、シリコーン樹脂と訳されることもありますが、あまり、「樹脂」と強調する必要はないですし、「樹脂」の定義の問題にもなりかねないので、シリコーンと訳した方が特許実務としては無難です。また、siliconeはケイ素を含む樹脂という意味で、ケイ素樹脂とも訳されますが、ここからさらに発展させてといいますか、ケイ素=シリコンということで、siliconeをシリコン樹脂と訳されたりもします。
とすると、siliconeが、シリコーン樹脂になったり、ケイ素樹脂になったり、シリコン樹脂になったりもすると訳が分からなくなり、シリコーンも、ケイ素も、シリコンも同じもののようになってくるわけです。
そうすると、きちんとした言葉の使い分けができなくなります。
産業の業界によっては、あまり厳密な使い分けをしていない業界もあります。例えば、ノンシリコンシャンプーなどは、本来は、シリコーンが入っていないシャンプーという意味だと思いますので、ノンシリコーンシャンプーなのでしょうが、誰も気にしません。
それはともかく、特許実務においては、常に基本となる立ち位置を意識する必要があります。
例えば、「siliconeは・・・である。このようにsiliconを含む化合物は、・・・である。」みたいな文章は、間違いではありません。
これさえ分かっていれば、ごちゃごちゃにならなくてすみますし、正しい翻訳(英和のときも、和英のときも)になりやすいと思います。
例えば、和英の際には、日本語のシリコンを機械的にsiliconと訳してもsiliconeと訳してもいけません。常にどういう意味で、そのシリコンが使われているかを考え、クライアントと議論・確認する必要があります。また、英和の際にも、相応の配慮が必要です。
ちなみに、ひとたび特許がされてしまった後に誤訳に気づいたとしても、特許請求の範囲の変更・拡張になるとして訂正が許容されない場合もあり得るので、本気で気を付ける必要があります。意外と、法改正により、訂正目的の中に誤訳の訂正が入ったことから、誤訳なら直せると勘違いしている方が実務家(弁理士・翻訳者etc)にも多いようですが、とても危険な勘違いだと思われます。勿論、弊所ではそんなことはあり得ませんが。