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ジェネンティック事件・知財高裁大合議判決(存続期間延長)


知財高裁大合議判決(延長)が出ました。。。

飯村判事がご退官される前に、きっちりと、判決が出ましたね。。。

判決はこちら

さて、判決の重要な部分を検討します。

審査官(審判官)が,当該出願を拒絶するためには,
「政令で定める処分を受けたことによっては,禁止が解除されたとはいえないこと」(第1要件),又は,
「『政令で定める処分を受けたことによって禁止が解除された行為』が『その特許発明の実施に該当する行為』には含まれないこと」(第2要件)
のいずれかを選択的に論証することが必要となる。 
審査官(審判官)は、延長登録出願を拒絶するには、上記の第1要件または第2要件を論証しなければならないわけです。
医薬品の成分を対象とする特許(製法特許,プロダクトバイプロセスクレームに係る特許等を除く。)については,薬事法14条1項又は9項に基づく承認を受けることによって禁止が解除される「特許発明の実施」の範囲は,上記審査事項のうち「名称」,「副作用その他の品質」や「有効性及び安全性に関する事項」を除いた事項(成分,分量,用法,用量,効能,効果)によって特定される医薬品の製造販売等の行為であると解するのが相当である。
先ず、この解釈をおきます。これは、一連の近時の知財高裁の裁判例の根底に脈々と流れている解釈です(以下、「本判決のキモ」と適宜、呼びます。)。この解釈を措くことで、従来の特許庁の審査基準(発明特定事項(+用途)説)とは全く異なる結論が導かれます。
ウ 本件先行処分では,「他の抗悪性腫瘍剤との併用において,通常,成人にはベバシズマブとして1回7.5mg/kg(体重)を点滴静脈内注射する。投与間隔は3週間以上とする。」との用法・用量によって特定される使用方法による本件医薬品の使用行為,及び上記使用方法で使用されることを前提とした本件医薬品の製造販売等の行為の禁止は解除されておらず,本件処分によってこれが解除されたのであるから,本件処分については,延長登録出願を拒絶するための前記の選択的要件のうち,「政令で定める処分を受けたことによっては,禁止が解除されたとはいえないこと」との要件(前記第1要件)を充足していないことは,明らかである。本件処分については,延長登録出願を拒絶するための前記の選択的要件のうち,「『政令で定める処分を受けたことによって禁止が解除された行為』が『その特許発明の実施に該当する行為』には含まれないこと」との要件(前記第2要件)を充足していないことも,明らかである。 
本判決に対して、特許庁は上告するでしょうか?する可能性はあるかと思います。

特許庁がとりえるアプローチとして主要なものは、
・上告して、本判決の解釈手法自体を争う
・上告せずに、本判決の解釈手法自体を全面的に受け入れる(つまり、全面修正)
・上告せずに、本判決の射程を狭く据えて、「用途」についてのみ従来の審査基準より拡張した考え方を導入する(つまり、マイナー修正)

上告せずに落としどころを見つけるとするなら、従来の特許庁の審査基準側からみて本判決との整合性をとるならば、本判決の射程は、「用途」を「効能・効果」のみならず、「用法・用量によって特定される使用方法」にまで拡張した、だけのことにすぎず、その点において、従来の特許庁の審査基準との整合性を図ることはできる、という考え方もできるかもしれません。すなわち、マイナー修正です。

しかしながら、そもそも、本判決のキモは、上で引用したとおり、医薬品の成分を対象とする特許(製法特許,プロダクトバイプロセスクレームに係る特許等を除く。)については,承認を受けることによって禁止が解除される「特許発明の実施」の範囲は,上記審査事項のうち「名称」,「副作用その他の品質」や「有効性及び安全性に関する事項」を除いた事項(成分,分量,用法,用量,効能,効果)によって特定される医薬品の製造販売等の行為である、としている点です。

したがって、本判決の解釈に従えば、クレームが単なる物質特許や(有効成分と用途しか特定されていない)用途発明であったとしても、例えば、5mgの承認(先行処分)の後に、10mgの承認(後行く処分)があれば、先行処分では禁止が解除されておらず、後行処分によって初めて「禁止が解除された」部分があることになるといえるわけです。このような考え方は、従来の特許庁の審査基準(発明特定事項説(+用途)説)とは矛盾します。したがって、本判決のみに関しては、「用途」の部分の解釈を拡げるという最低限の手当で、審査基準をマイナー修正するということは、将来に問題を先送りしているだけといえます。

そもそも、従来の(従来の、と呼んでいますが、現在の、という意味です)特許庁の審査基準(発明特定事項説(+用途)説)は、以前問題となった最高裁判決の原審である知財高裁判決の考え方をそのまま採用すれば、先発品メーカーの延長された特許権の効力が逆に弱体化するということを念頭において、特許庁の有識者の方がぎりぎりの努力をされた賜物だったわけです(不分明な点もかなりありますが。)。そして、その原審であった知財高裁判決の考え方は、基本的には、本判決のキモと同じなわけです。そして、最高裁判決は、そのような原審であった知財高裁判決の考え方については、華麗にスルーをして、判決を書いているわけです。

特許庁は、今度は大合議判決という形で、二度目の挑戦を受けたことになりますが、この本判決のキモ(知財高裁の考え方)を受け入れずに、上告する可能性も相当程度あるのではないかと思います。ただ、特許庁としても、現状の条文に基づく、法律論として、知財高裁判決の考え方も一理あるわけですし、また、これとは異なる考え方を最高裁においてごりごりと展開していく程の必要性を覚えるべきかは微妙なところでしょう。先の最高裁判決に至った事案においては、原審は、大合議判決ではなかったことと、知財高裁全体として、相互に矛盾を抱える判決があったので、最高裁に上告する必要性が高かったといえますが、今回は、知財高裁としての態度は、大合議判決という点で、明白ですので、よほど、どこからか上告を迫られない限り、なかなか、上告し難いとも思われます。

なお、日本の条文自体が「物と用途」であって「有効成分と用途」ではないことにも原因がありますので、法改正への圧力が高まるかもしれません。ただ、後発品の使用促進という観点と、日本における先発品のイノベーションを保護するという観点とが、拮抗するでしょうから、法改正自体には、なんともいえない不透明感が漂っていると思います。

この延長の問題は、先の最高裁判決の事案において、パンドラの箱が開かれてしまっていたといえるでしょう。

ちなみに、敢えて、大合議判決は、敢えて延長された特許権の効力の範囲について、解釈を提供していますが、これは勿論、傍論です。しかし、この解釈をみてみても、あまりに予見可能性が無い判断なので、なかなか賛成し難いですね。従来の(つまり、現行の)審査基準の方が細部で問題があるものの、全体的にバランスがよいようにも思われてしまいます。まあ、文理解釈をどこまで重んじるかという問題になるのかもしれませんが。

本判決については、他にもいろいろ考えていることがあるのですが、時間が足りませんので、ここで、いったん、筆をおきます(タイプを止めます。)。



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