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特許権は独占権か排他権か?先願意匠実施の抗弁の再考


特許権は独占権か排他権か?

言葉の定義にもよるけど、基本的には、自己実施の抗弁を認めない点において、排他権であると理解されている。

ただ、条文の立てつけが、いかにも独占権的なものになっている。例えば、68条や72条など。


(特許権の効力)

第六十八条  特許権者は、業として特許発明の実施をする権利を専有する。ただし、その特許権について専用実施権を設定したときは、専用実施権者がその特許発明の実施をする権利を専有する範囲については、この限りでない。

(他人の特許発明等との関係)

第七十二条  特許権者、専用実施権者又は通常実施権者は、その特許発明がその特許出願の日前の出願に係る他人の特許発明、登録実用新案若しくは登録意匠若しくはこれに類似する意匠を利用するものであるとき、又はその特許権がその特許出願の日前の出願に係る他人の意匠権若しくは商標権と抵触するときは、業としてその特 許発明の実施をすることができない。


68条なんかは、「専有する」に排他権としてのニュアンスを理解できるから、そんなにも問題はない。

72条なんかは、排他権として理解するには、むしろ、確認規定と考えないといけないし、「利用」も「抵触」の一場面だと考えると、いかにも整理がされていない感じがする。


しかし、もっとも看過できなさそうなのは、なんといっても、81条と82条です。例えば、81条なんかは、素直に反対解釈すれば、意匠登録出願の方が先願または同日であれば、意匠権者は、意匠権が存続する限り、特許権の技術的範囲に属しても、自己実施である限り、特許権を侵害しない(抗弁が立つ)ことが大前提になっています。その大前提のもとに、意匠権が満了後も、81条の通常実施権が手に入るということです。これは、特許権や意匠権を排他権と考える立場からすると、極めてすわりが悪い規定といえます。特許権と意匠権がクロスサーチされないという理由だけで正当化するのは、排他権の思想に立つ以上は、困難そうです。


(意匠権の存続期間満了後の通常実施権)

第八十一条  特許出願の日前又はこれと同日の意匠登録出願に係る意匠権がその特許出願に係る特許権と抵触する場合において、その意匠権の存続期間が満了したときは、 その原意匠権者は、原意匠権の範囲内において、当該特許権又はその意匠権の存続期間の満了の際現に存する専用実施権について通常実施権を有する。

第八十二条  特許出願の日前又はこれと同日の意匠登録出願に係る意匠権がその特許出願に係る特許権と抵触する場合において、その意匠権の存続期間が満了したときは、その満了の際現にその意匠権についての専用実施権又はその意匠権若しくは専用実施権についての意匠法第二十八条第三項 において準用するこの法律第九十九条第一項の効力を有する通常実施権を有する者は、原権利の範囲内において、当該特許権又はその意匠権の存続期間の満了の際現に存する専用実施権について通常実施権を有する。


とくに、最近、アップル対サムソンのドイツでの差し止めを契機として、意匠権が問題となっていますが、 意匠の出願は特許の出願よりも、すばやく準備できることができることを考えれば、我が国で、後願の特許権に対して、最低限、自己実施が確保できるとするには、本当にこれでよいの か、制度論として、再考が必要なのではないかと思われます。この辺は、いずれ論文にまとめたいと思いますけど。。。

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